ストレスチェックに見る経営姿勢

「今年から労経ファイルに寄稿しています。これまで、6月、9月と寄稿してきました。今回12月号が出来上がりましたので、こちらにも掲載します。」ご意見、ご感想などいただけたら、幸いです。

ストレスチェックと進捗状況

厚労省は、平成27年12月から50人以上の事業所において、今年の11月末までに、ストレスチェック(アンケート形式)を実施することを義務付けました。もうすぐ、義務化から一年が経とうとしています。

今年7月時点で、50人以上の企業600社を対象に調査した結果、1,000人以上の企業では49.5%がすでに実施したのに対し、200人未満の企業では20.6%に泊まっていました。中小では、費用や人員面に余裕がないことが主な原因であるようです。(アドバンテッジリスクマネジメント調べ)。2016年度版中小企業白書概要によると、日本の企業数は382万社、そのうち大企業は1.1万社、中企業は、56万社、小規模企業は325万社となります。今回ストレスチェックを義務化されるのは、少なくとも中企業以上は全て含まれると考えられますので、大変な数の企業が、今年の11月末までに産業医を実施者としてストレスチェックを実施しなければなりませんが、労働局への結果報告はその後でもよいことも後半に集中する要因だと思われます。筆者は、中小企業を中心に企業まるごとカウンセリングを提唱し、働く人の心のケアだけでなく、働きやすい職場づくりの提案・実践するため、何度もストレスチェックを実施して参りました。そのストレスチェックを実施段階に会社の実態がよく表れることに気が付きました。

ストレスチェックの成否を左右するもの

さて、今回のストレスチェックは、これまでのメンタルヘルス対策を「早期発見」「早期治療」の二次予防からメンタル不全になる前の未然(未病)対策である一次予防に移行しようとする狙いがあります。

正確なストレスチェックの結果を得るには、会社の姿勢に依るところが大です。つまり、ストレスチェックの趣旨を従業員に周知する段階において、経営者の意欲を示すことが必要になります。従業員にメンタルヘルスの起こる原因や背景について、従業員の理解を深めるようにしなければ、効果的なストレスチェックは実施できません。この準備の段階にすでに会社の実態が現れているのです。

まずは、会社の対応です。なぜストレスチェックを実施するのか、理解しやすく従業員に説明しているか、またどのように説明をしているか、積極的なのか消極的なのかを見ています。経営者が普段どのように従業員に接しているのか見ることができます。

次に社員の反応です。ストレスチェックに対して、どのような姿勢で臨むのか、積極的なのか、素直に対応するのか、明らかに抵抗を示すのか、消極的な態度なのかを見ています。社員に対してストレスチェック調査を行う際、十分な説明を行わない会社は、何らかの問題が見受けられます。その会社は、トップダウンの仕事の進め方を取る傾向にあり、ストレスフルな職場が多いようです。また、そこに配慮がなく、強制的であれば、さらにその傾向は強くなっています。社員に対して必要にして十分な説明が出来ない会社もあります。総務や管理機能が低い会社です。そういった会社では、諦めムードが漂っています。また、問題がある程度わかっていて、あえて掘り起こしたくないと考えている会社も見受けられます。問題ある会社の社員側では、ストレスチェック結果が会社や経営者に漏れることを強く心配していることが伝わってきます。これでは、ストレスチェックそのものの意味を失ってしまいます。

求められる経営者の意識改革

最も心配しているのは、ストレスチェック結果が社員の手に渡った時点で、メンタルヘルスの未然対策が経営問題から手が離れてしまうことです。費用や手間をかけて行うストレスチェックを、経営にとって意義あるものにするにはどう向き合えばよいのでしょうか。

どの経営者も会社の収益を高め、企業価値の向上を目指していると思います。その実現を担うのは従業員です。これまでの筆者の実施経験からも、ストレスチェックの結果には、従業員の不満や不安などが心身のストレスとなって反映されることがわかっています。過度なストレスは生産性低下を招くというデータもあります。

今の状態を把握できるストレスチェックを活用することにより、職場の諸問題を把握して、従業員の心身の安定度を増し、職場の活性化につなげていくことができます。すなわち、ストレスチェックは、単なる福利厚生的な施策に止まらず、人材への投資的な意義があります。

また、経営者のストレスチェックへの前向きな姿勢は、従業員にとり自分が大事にされていると思える、メッセージになります。

上手に取り入れて活用したいものです。