表面化しにくいイジメ
いつの世になってもなくならないのが「イジメ(虐め/苛め)」です。最近、イジメによる中学生の自殺報道で学校関係者が謝罪をしている姿をよく見かけます。事件が起きて初めて、学校側は「イジメの存在に気が付きませんでした」「調査の結果、イジメがありました」などと弁解しており、学校側の管理責任が追及されています。ひどい場合には、学校の先生が加害者になっていた例や福島からの避難者が「バイ菌」扱いをされた上、遊びのお金を払わされるなど信じられないような事件も起こっています。このように表面化するのはごく一部であり、氷山の一角と思われます。
筆者は、企業から依頼されて個人へカウンセリングをするとともに、組織へは職場改善のアドバイスや提案を行っています。前記のようなイジメが職場においても存在し、憂慮しています。一般的にイジメとは、ウィキペディアでは、「肉体的、精神的、立場的に自分より弱いものを暴力や差別、いやがらせなどによって、一方的に苦しめること」とあります。職場のイジメについては、「上下関係のない同僚の間における行為」を定義に付け加えたいと思います。パワーハラスメントのように、職務上の地位や影響力を行使したものであれば、罰則規定もあり、対策しやすい面もありますが、同僚間の場合には、すんなりと解決には至りません。職場におけるイジメは、中学校のイジメよりもっと複雑な関係を含んでいるからです。それは、職場はいろいろな雇用形態で働いている人々で構成されている実態があります。正社員の他に、出向社員、パート社員、契約社員、嘱託社員、派遣社員などが混じり合って働いていることも関連していると思われます。イジメによる対立も正社員間だけでなく、様々な雇用形態の間で発生しています。
社員面談で筆者に来る相談内容からイジメと思われる中身の一部を紹介します。『いつも横柄で威圧的な態度で接してくるので、嫌な気持ちになる』、『嫌なあだ名で呼ばれ、止めるように言っても、冗談がわからないのかと逆に言われてしまう』、『飲み会や遊びなどから仲間外れにされ、陰口を言われている』、『正社員のくせに働かない』など、仲間内の些細な悪戯のように見えます。深刻な悩みでは、『嫌な気持ちになるので、業務に集中できない』、『会社に行きたくない』、『辞めたいけど、生活に支障を来すので辞められない』などメンタルヘルスの問題に発展しています。
さらに問題を表面化しにくくなっていることとして、次の二つが関わっていると思います。一つは、一人前の社会人なので、自分の力で何とかしなくてはならないと思っている点、もう一つは同僚の間で行われているため、会社が介入しづらいという点です。
会社ができること
カウンセリングを通じてわかったイジメの共通点は、職場の本来の目的を見失っている人が起こしているということです。また、イジメをする人は会社に不満があり、そのはけ口に使っているようにも感じます。
同じ会社に属し、同じ方向を向いて、目的を達成するために仕事をしようとするのならば、立場は違っていても足を引っ張るような陰湿なイジメは、起こらないでしょう。しかし、雇用形態が異なると、会社及び業務への思いに温度差が生じてしまいます。学校と違い、職場のイジメの影響は、職場の雰囲気を悪化させ、生産性の低下に繋がることが問題です。そのことを経営者や管理職は理解しなければなりません。
一つの例として、かつて元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏が治安回復のために導入した「割れ窓理論」があります。それは「壊れている建物の窓を放置したままにすると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがてすべての窓が壊される」というものです。ジュリアーニ市長は、この小さなことと思える割れ窓を修理する対策を取ったのです。この姿勢が治安を回復させることに繋がったのです。
それでは、職場の小さなイジメの芽を摘み、ハラスメントへの拡大を防ぐには、どうすればよいでしょうか。
経営者にできることをひとつ上げると、“小さなイジメに対して、会社がどのような姿勢で臨むのか例外を作らない毅然とした姿勢で貫き、会社が進むべき道を常に発信する”ことです。
さらに、現場を預かる管理職がなすべきことは、「見て見ぬふりをしない」という職場のムードづくりです。どの雇用形態の社員に対しても公平で公正な態度をとり、様々な立場の声を拾い上げ、業務に反映させる仕組みを作り、職場のモラールを高めることです。