虫歯とサラリーマン (労経ファイル「ちょっと一服コーナー) 2019.9月号掲載)#ストレス 

虫歯治療の先延ばし

筆者は、毎月顧問先社員とメンタルヘルス未然対策の一環で定期的に面談しています。その社員の中には、虫歯があるのにギリギリまで歯医者に行かず、我慢しているケースが多く見受けられます。歯医者に行くと、歯を削られたり、痛くもない歯の治療が必要だと言われたりするのか、できるだけ先延ばしをしているようです。そこで、虫歯を甘く見ているサラリーマンに口腔衛生がどのくらい重要で、どのような影響を与えるのか調べてみました。

ストレスと口腔衛生

虫歯になることとストレスとの関係を具体的に見てみます。人はストレスを受けると自律神経が乱れ、特に交感神経が活発になり、唾液の量が減少します。よく緊張すると喉がカラカラになります。唾液の量が減ると口腔内の衛生に大きな影響が出て参ります。唾液には10種類の抗菌物質が含まれており、虫歯の原因菌などが繁殖することを防ぐ役割を持っています。唾液量が減少した口腔内は雑菌にとって好環境となってしまいます。

また、ストレスを感じると奥歯を強くかみしめたりすることがあります。この歯ぎしりによって歯の表面がすり減り、虫歯となるリスクが高まるといわれています。さらに興味深いことに、過剰なストレスが新陳代謝を低下させ、体中の血行障害を引き起こすというものです。通常ですと虫歯菌が口の中に侵入すると白血球やリンパなどが細菌をやっつけるところ、血行障害が免疫力を低下させて細菌と戦うメカニズムを弱めてしまうのです。

虫歯以外にもストレスから受ける悪影響はあります。それが歯周病です。虫歯になるのと同じメカニズムで歯周病になると歯茎が不安定になり、歯茎の腫れから徐々に歯がグラグラし始め、最終的に抜け落ちてしまいます。歯を失う原因で最も多いのが歯周病です。虫歯はもとより歯周病になって、歯が少なくなれば、噛む能力の低下がおきます。

8020運動

日本歯科医師会では、高齢になっても元気で豊かに過ごしていただくため、いつまでも自分の歯で自分の口から食事をとることが最も大切なことであると考えて、口腔内の健康を保持・増進する活動により8020運動を推進しています。日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動は、20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足ができると言っています。8020運動により自分の歯でしっかりと食べ物を噛むことができれば、全身の栄養状態も良好になるし、よく噛むことで脳が活性化され認知症のリスクの軽減にも繋がるとも言われています。

8020達成率は、運動開始当初は7%程度(平均残存歯数4~5本)でしたが、2005年歯科疾患実態調査では、80歳~84歳の8020達成率は21.1%で、85歳以上だと8.3%にまで伸びました。その後、2017年6月に厚生労働省が発表した調査では、達成者が51.2%となりました。

しっかり噛める効果

しっかり噛めることが、健康長寿や脳の活動にまで深くかかわっていることが分かりました。それは、しっかり噛むことにより唾液が多く分泌され、唾液に含まれる消化酵素が十分に働き、体内での消化吸収がよくなり、胃腸の負担が減少し、生活習慣病対策にもなるということです。

また、噛む行為が脳の前頭前野を刺激するのです。前頭前野は、考える、コミュニケーションをとる、意思を決定するなど最も知的で論理的な機能が局在しています。認知症防止になるだけでなく、記憶力に関係する海馬にも活性化させます。よく噛むことと脳の関係のカギを握るのが歯の根元にある歯根膜という組織です。歯根膜は歯を守るクッションの役割をするとともに食べ物の硬さや柔らかさ、噛みごたえなどの情報を感じ取る優秀なセンサーです。歯根膜の神経は、脳神経の中でも最も太い三叉神経に繋がっています。歯が抜けるとこれらの食べ物の正確な情報が脳に伝わらなくなります。

今できること

このように虫歯を軽く考えていたサラリーマンは、考え直さないと将来に亘って大変な悪影響が出ることが分かりました。特にストレス社会で働くサラリーマンにとって虫歯の治療は素より、口腔ケアをすることは、生産性向上に繋がる働き方改革にも影響し、ストレス軽減のメンタルヘルス対策や生活習慣病対策にもなるということです。まず我々がすぐにできることは、歯医者に行くこと、早食いをしないでよく噛んで食事を摂ること、ストレスを貯めないことです。自分の歯を維持することは、現代を生きる我々にとって必要なことです。

産業自律訓練法研究会

株式会社ササモライフアシスト

代表取締役 佐々本良二