鼻呼吸のすすめ (労経ファイル「ちょっと一服コーナー」2019.12月号)#ストレス 

増え始めた口呼吸

筆者が子どもの頃、多くの子どもは洟を垂らしていました。そのため筆者は、いつも口を開けて口呼吸になっていたように思います。現在でも気が付くといつの間にか口で呼吸をしています。それに比べ、現在では洟を垂らしている子どもを見かけません。洟を垂らしていなかった今の若者でも、食生活の変化から口周りの筋肉の機能が弱くなったことにより口呼吸が増えているとのことです。そこで、口呼吸と鼻呼吸の問題点や機能の違いをインターネット等で調べてみました。

口呼吸するのは人間だけ

なんと哺乳動物の中で口呼吸をするのは、喋りだす1歳以上の人間の一部だけのようです。犬や猫が舌を出して空気を行き来させているのは、浅速呼吸と言う呼吸方法で、主に体温調整の為に行う呼吸方法です。犬や猫などの動物は食道と肺が繋がって入るものの、喉の奥に蓋のようなものがあり、呼吸ができる仕組みにはなっていないのです。多くの動物に共通して言えることは、食べ物が通る道である食道と、空気を肺まで送るための器官が完全に分かれているのです。その為、呼吸は鼻からしか行うことができず、食べ物は口から入れるしかありません。人間は鼻と口が繋がっていて、どちらからも呼吸ができますし、鼻から栄養を摂ることもできます。この構造のお陰で人は言葉を自在に話すことができるのです。このように人の体はそもそも口で呼吸をするようにはできていません。鼻は呼吸器、口は消化器であるため、本来の呼吸器ではない口を使って呼吸をすることによって、さまざまな弊害が出てくるようです。

口呼吸の3つの弊害と鼻呼吸の機能

口呼吸の弊害の1つ目は、風邪をひきやすくなるということです。口呼吸は風邪のウイルスがダイレクトに入ってくるため、風邪をひきやすくなります。2つ目として、口呼吸は口臭や虫歯の原因にもなります。口呼吸になると口の中が乾燥し、唾液の量が少なくなります。唾液は口内の細菌を殺す役割があるため、それができなくなって口臭の原因となります。3つ目には、口呼吸は眠りを浅くする原因にもなります。寝ている時に口呼吸になっている人はいびきをかいている可能性が高いです。その結果、眠りが浅くなって良質な睡眠がとれなくなります。

一方、鼻呼吸には吸い込んだ空気の中に紛れ込んでいる体にとって有害な物質を取り除いて濾過する機能があります。そして、空気を適度な温度にして体内に取り込んでいます。また、鼻の中には毛細血管がたくさん通っています。これは、鼻から入ってきた温度の低い空気によって血液を冷やして脳に送る血の温度を覚ましているのです。そして、鼻の穴が二つあるのは、鼻の穴が一つだと鼻から吸い込んだ空気が乱流を起こして、肺への輸送がスムーズにいかなくなり、空気を吸い込むためのエネルギーも余分に必要になります。そのため、臭細胞の匂いの元である臭素をキャッチできなくなり、匂いが識別できなくなります。鼻呼吸の方が、呼吸量が減るため体内の二酸化炭素濃度が上がり、口呼吸より体内に取り込める酸素が増加します。このように確かに鼻呼吸の方が呼吸器として効率的に機能しているのがよくわかります。

さらに、正しい深呼吸の方法を見てみます。まず、最初に肺の中の空気をすべて吐き出して、鼻からゆっくりと、肺一杯に息を吸い込みます。そして、腹部を膨らませるまで、深く息を吸い込みます。そして、鼻からゆっくりと、すべての息を吐き出します。吸い込む時の倍の長さをかけるほど、ゆっくり吐きます。このように心を落ち着かせる時にも、鼻呼吸が効果的な役割を果たしています。

鼻呼吸と脳との関係

なぜ鼻呼吸が心を落ち着かせるのかについて、ノースウエスタン大学やハーバード大学の研究者らが、脳の機能と密接に関係していると報告しています。嗅覚皮質における電気刺激の調整において鼻呼吸が極めて重要な役割を果たしており、嗅覚系と隣接する情動・記憶・行動に関与する大脳辺縁系にも大きな影響を与えていると考えられています。また人間の脳は、人間の一日の摂取カロリーの1/5もエネルギーを使い発熱します。これを冷やしているのが、鼻から入った空気なのです。口よりも鼻から入った空気が脳の下を通り、直接的に脳を冷やして脳のオーバーヒートを防いでくれます。鼻が詰まると、頭がボーっとするのは、鼻呼吸ができなくて、脳の冷却ができなくなると考えられます。

心当たりのある読者は、なるべく早いうちに口呼吸から鼻呼吸へ意識して切り替えた方が良いかもしれません。

産業自律訓練法研究会

株式会社ササモライフアシスト

代表取締役 佐々本良二