「ストレスと泪と男と女」

唄にみる涙への思い

「♪涙の数だけ強くなれるよ。アスファルトに咲く花のように♪」と歌ったのは、2000年にリリースされた岡本真夜の「TOMORROW」という曲です。そして「♪忘れてしまいたいことやどうしようもない寂しさに包まれた時に男は、酒を飲むのでしょう・・・俺は男、泪は見せられないもの・・・♪」と歌ったのは、1976年にリリースされた河島英五の「酒と泪と男と女」です。どちらもヒットした古い唄ですが、二人の唄には涙とストレスに関する日本人の男女の感性が感じられます。

ストレスと涙と

感情の動物である我々人間は、悲しい時、嬉しい時、悔しい時、感動した時にも涙を流します。不思議に涙を流した後は、スッキリした気がします。

まずは、涙とストレスとの関係を探ってみます。涙には、①基礎分泌の涙、②刺激による涙、③感情による涙があります。1995年、アメリカのウイリアム・H・フレイ博士は、基礎分泌や刺激による涙と、感情による涙の成分には違いがあると発表しました。基礎分泌や刺激による涙とは、玉ねぎを切った時に出る涙です。感情による涙には、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が検出されたということです。そして、このACTHがストレス反応として分泌されたホルモンなので、涙と一緒に体の外へ放出されたことになります。そのため、感情による涙の方が単なる刺激を受けたときに出る涙よりも成分が濃いというが分かりました。涙を流す前と後とでは、血液中のストレスホルモンのACTH値が減少しているということで裏付けられます。ちなみに涙の成分は、水、カリウム、マンガン、塩分、脂肪、たんぱく質などが含まれています。

つまり、涙と共にストレスホルモンが体外へ放出されることがスッキリした感覚となるようです。逆に言えば、ストレスを受けて血液中に増えてしまっているストレスホルモンが流されないでいることは、体内に留めていることとなり、ストレス性の病気になる可能性があることが分かります。笑うことが心と体の健康に良いとよく言われていますが、涙を流して泣くこともストレス解消に良いということになります。

また、ストレスと関係が深い自律神経は、緊張や興奮を促す交感神経とリラックスや安静を促す副交感神経があります。涙を流すという行為は、交感神経が優位な状態から副交感神経が優位な状態に切り替わることによって起こっています。そのため涙を流すことによって、ストレス状態が解消されたリラックス状態を促すことになります。かえって、涙を我慢することは、緊張状態を長引かせ、ストレスを溜めた心と体の健康には良くないことになります。

泪と男と女と

さらに涙に見られる男女の差について考えてみます。厚労省において、2016年の自殺者は21,897人で、男性15,121人、女性6,776人となっています。男性が約7割を占めています。しかし、うつ病患者の生涯有病率は女性が男性の2倍以上となっています。この傾向は、統計を取り始めてから変わっていないようです。つまり、精神疾患の患者は女性の方が多いのに、自殺は男性の方が多いということは、女性はストレス状態が長く、男性は短いことになり、ストレス耐性が弱いと考えられます。これは普段から涙を流すことを我慢する傾向のある男性とそうではない女性との涙の数と関係がありそうです。

男性の方がストレスに弱い?

 この傾向はどこから来るのでしょうか。

筆者自身、河島英五の唄にあるように日本では昔から、「男はめったに泪を見せるものではない」と言われて育てられました。泣き虫は日本の男にとって侮辱的な言葉に感じます。泣いて涙を流すことを恥ずかしいと考える日本の男性がストレスに対してうまく対処できていないと考えるとこの傾向も合点がいきます。特に大人になると泣くのを我慢する傾向が強くなります。

大いに泣きましょう

今巷では、「涙活」なるものがあるようです。これは、意識的に泣くことでストレス解消を図る活動のことです。こうした涙の効果に注目し、泣ける映画や朗読を聞いて意識的に涙を流す涙活イベントも各地で開催されているようです。まだまだ男は涙を見せるものではないという偏見は拭い去れないものの、ストレスが多い現代を如何にうまく乗り切って生きていくために、涙を意図的に流すことも一つの対処法となります。大人の男たちよ、一人で読書やDVDの鑑賞で涙を流すのもよし、「涙活」で涙を流すのもよし。大いに泣きましょう。明日への活力になること間違いなし。